2013年01月30日

出版のワンダーランド

ある日のこと、出版の森に足を踏み入れてみたらいつのまにかすっかり迷子になっていた。
 あたりはうっそうと茂った緑の密林でときおり聞こえてくる野鳥の声に思わず身構えてしまう。けれども勇気を振り絞って更に奥へと踏み出してみると、やがて密林は切れて前方には観たこともない不思議な光景が現れるのであった。といったような経験はないだろうか。
 これはほとんどないと思う、と断言するのにはわけがある。
 本を出したい人の多くが、少なからず出版に幻想を抱いているのではないか。それは例えば宝くじを買う動機と通底しているかもしれない、両方とも夢を買っているのではないかという点で。
 けれども一方ではやがてこの夢は儚いものだと分かってくるのだ。
 そして、宝くじで億万長者になることはほとんどが希有なる幸運の持ち主に限られるけれども、出版の場合はまったくそうではないと思い至るのである。
 出版はどこの宝くじ売り場(出版社)で買ったから(あるいは 売ったから)当たるというものではない。出版は宝くじのように不確実性の高い他者のトリック(仕掛け)に乗っかって買い付けるものではなく、こちらからの己が仕掛け(作品)を世界に向けて売りつける行為に他ならない。
 そしてこれらの仕掛けを弄して展開される──出版に限らないことだけれど──凡百のビジネス戦略は確実な成果を希求するものであり、そうでなければ目的は達成されないのである。反対に本を出す行為はこれらの資本の論理とは無縁なところで一部成り立っている。つまり競争原理を働かせないような仕組み──再販制度というもので守られているのだ。だから無名の人でも本を出すことの機会均等を付与されている。それで世の中に流通させることもできる。もしもここに市場原理が 働いているなら、無名の作家が世に出るチャンスは限りなくゼロになってしまうだろう。 
 他の森のことはいざ知らず、本の森に潜む獲物を照準するための銃口(ペン先)をそこらじゅうに光らせたところで、そこで獲物を確実に発見し、ハンティングできるという保証はどこにもない、それがこの森の不可思議(ワンダーランド)であるゆえんである。

 最近、「何であんなもんがあんなに売れるんかいな」としばし考えこんでしまうのは、私ばかりではないだろうけれど。
posted by fujibooks.com at 08:26| Comment(0) | プラチナ通りの貸本屋
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