2015年09月17日

豊かな人生セミナーのお話

 先日、ある中高年者向けのセミナーに行ってきた。豊かな人生設計をするための講座であるという。金曜の夜7時〜9時まで。このようなセミナーはあちこちで開かれていて、大体無料で受けられる。ファイナンシャルプランナー、社労士、介護士になるためのハウツーものセミナーだとか、結構ためになりそうなものも多い。
 講師の先生の話がとても面白い。先生は60歳を過ぎていて、まさか自分がこのようなセミナーの講師になって皆さんの前でこうして話しているなんてのは、5年前の自分からは想像もできなかった事だとおっしゃる。そして人生は60歳を起点に大きく変わるというのだ。
 例えば、今までの20歳から60歳までに働いて来た時間とこれから60歳から80歳まで生きたとして費やす自由な時間とを考えると面白い事が分かって来るという。どういう事かというと、20歳から60歳までの40年間に1日8時間働いた時間とこれから60歳から80歳までに1日に自由に過ごす時間を1日16時間とすると、今まで働いて来た40年間と同じボリュームの自由な時間をこれから過ごす事になるのであるという。(働いているときには休日もあるので、60歳からの20年間の自由な時間の方が長い)40年間も働いて、長いなーと思っていた時間と同じ時間を、これから何とかやりくりして過ごさねばならないという事になるのだ。それは毎日が日曜日な時間である。しかしこれは途方もなく大変な時間であり、同時に大変な事態である。毎日寝たり、ご飯を食べたりする時間を多少差し引いたとしても正味16時間もの時間をただテレビを見たりして過ごしていたら、すぐに飽きてしまって嫌になってしまうのは明白である。大変である。健康で長寿という状況もなかなか単純なものではなさそうだなと想像できる。
 そんな事に思い至ると、何かこれからは生涯をかけて取り組むものが必要になってくるのではないか、そんな時、人はどうも、もの書きに目覚めたりするものらしい。
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2015年09月07日

新作落語お披露目の巻

新作落語 伊豆の踊子

以下の作品は以前に年中賀状日和という本を作らせてもらったときに、落語好きの著者に触発されて作った小噺です。
出版社フジモトのアピールも大いに入っております。


 エー、こちらは自費出版とかいう小説やら写真集やらの本作りがご専門のところのようでございますので、わたくしのような噺家の話はちょっとばかり場違いかとは存じますが、残暑も幾分おだやかになりました今日このごろ、ひといおつき合いの程をお願いを申し上げます。
 さて、東京オリンピックの競技場やエンブレム問題で、何かと賑やかな年になっておりますが、皆様方、本日は他ではけっしてやってはおらないという、とっておきの期間限定、当ブログ限定のお噺となっておりますので、ひとつお楽しみをいただければ幸いでございます。
 私の名前でもあります新屋(アタラシヤ)というのは新潟にございます有名な酒造りの会社の名前でもございまして、その新潟で生まれ育ちましたわたくしの高校時代からの無二の親友がこちらで出版を営んでおりますフジモト君でありまして、普段はフジモトと呼び捨てにしておりますが、今回は彼のたっての頼みを是非実現してやろうという事もございまして、ささやかではごございますが、平成二十七年の秋の特別バージョンでお届けしたいと思います。
 本日は一段と高いところからのご口上、大変失礼をいたしております。竹馬の友は奇縁の縁、酒と書物は六分の狂気、四分の熱などと申します。ひとつよろしくお願いを申し上げます。
 さて今年も早いもので、夏の暑さもどこへやら、これからはだんだんと寒さが増してまいります。秋が過ぎまして冬ともなりますというと、日本列島はあちこちで吹雪いたりしまして、一年中で一番寒い時期になってまいりますが、人間というのは勝手な生きものでございまして、寒ければ寒いで、ああ早く春にならないかなー、暑ければ暑いで、早く涼しくなって欲しい、なんてつい思ってしまう訳でございますが、そういう時には、気晴らしに温泉なんかに行ってみるのが一番でございますね。
 皆様方におかれましては、仕事上のトラブルなんかを抱えておりますと、ストレスも溜まってまいります。しかし、週末や連休はどこへ行っても人、人、人の波でございます。返ってストレスが増すばかり。それに比べて、平日の観光地というのは、すいております。ガラ〜ンとしております。近くの山がちょっとばかし噴火したという噂だけで、もう人っ子ひとりいやしません。というような状況にもなってまいりますので、是非皆様、そのようにパソコンの前でそうやってこちら側の字を見ておりますというと段々と目元あたりにも疲れがたまってまいりますのでね…でも本当のところ演ってるわたくしの方がもっと疲れるわけでございまして…。

 それはともかくといたしまして、そろそろ本日のメインエベントの方に入らせて頂きたいと思います。
本日は、かの有名な川端康成先生の名作、伊豆の踊り子の噺でございます。

 さて、こよい、秋雨前線たけなわ。小雨そぼ降る温泉なんかにつかりながらの一杯なんてのもなかなかの趣向でございますが、何しろ近ごろはカラオケブームでございまして、先日もテレビを見ておりますと、カラオケの先生が、おじさん達を対象にいたしまして、アチラの英語の歌をどうやったらうまく歌えるかなんて番組をやっておりまして、ジスイズアペンしか発音できないようなおじさん達が、犬のようにかしこまって教えを乞うているわけですな。
 宇多田ヒカルのイッツオートマチックなんてちょっと前の流行(はやり)の歌がございますが、おじさん達にとりましてはなかなか題名だけでも上手く発音できないのが現状なのでございます。
 でもこのテレビに出ておりましたカラオケの先生は立派ですなー。
「ああちがうちがう、それじゃ英語に聞こえません。このさびの部分のイッツオートマチックの所は、伊豆お泊まり、イズオトマリーなんて歌うとそれらしく聞こえます。はいもう一度歌ってみてください。はい皆さんでご一緒にー、イーズーおー泊まりー…」
 なんてやっておりました。すごいですね。私もやってみました。イーズ、オートマリー、………。
 えーなかなかのもんでございますが、この手の話は昔からたくさんございまして、例えば、昭和の初め頃の話になりますが、あこがれのハワイ航路なんて歌にもございますが、日本人が初めて観光旅行でアメリカに行きまして、列車の旅でもって、フィラデルフィアまで行く途中でございます。でもここで日本人がフィラデルフィアなんて現地の人に言っても通じないそうでございますな。
 古道具屋、これで通じるそうでございますが、例えば日本人がアメリカのとある駅の切符売り場でフィラデルフィアまでの切符を買いたいとしますね。どう言えば買えるかといいますと、我々が習った英語でいいますと、これはフィラデルフィアまでだから前置詞のtoを頭につけましてトゥー古道具屋、これだな。
 ここで中学校で習ったアイ・ゴー・トゥー・スクールが生まれて始めて役にたつわけでございます。
 そこで思わずトゥーフルドーグヤーと言ってみますと、窓口からフィラデルフィア行きの切符が2枚出てまいります。
 あー間違えたみたいだなー1枚でいいのに2枚も出てきた。うーむこれは、トゥーと言う前置詞が間違いだなきっと、そうだfor だ前置詞はforが正しい。
 例えば東京行きの列車のプラットホームとかに確かfor tokyoなんて書いてあったような記憶が…、そうだ前置詞はtoではなくforが正しい。
 やや時間を置きまして、おそるおそるforフルドーグヤーと窓口の人に告げますと、今度は何と4枚の切符を渡されそうになります。これは更に困った事態になってまいります。それでこの日本人はだんだん心の中が焦ってまいります。そこで思わず日本語でエートエートなんて独り言を言っておりますと、8枚の切符が出て来たというオチでありますが…。
 ちなみに皆さん、正しい切符の買い方はフィラデルフィアプリーズだそうでございます。
 もうひとつ似たような話で有名なのが斉藤寝具店というのがございますな。
 日本人が飛行機で外国に行きまして現地の空港に到着しましてのち入国手続きをする時に、係官から尋ねられた時に使うオーソドックスな英語での返答用語がざいまして、その時の係官は必ず入国の目的は何ですかと、もちろんこれは英語で聞いて来るわけですが、まあとにかく観光目的ですと答えなさいと、常々付き添いのツアーコンダクターに言われておりまして、覚えやすいように英語のサイトシーン(観光)を日本語に置き換えて使っております。中には間違えて渡辺寝具と答えてるおじさんも見受けられますがくれぐれも最後にテン(店)何てつけないようにお願いしたいものでございます。テンなんてあなた10回も観光するんですかなんて勘違いされてしまうというものでございます。

 えー、話を振り出しに戻しまして、伊豆の踊り子の話でございます。
 伊豆と言えば勿論、温泉が有名でございますが、まあ、あちこちの温泉に行ってみますとよくこちらが、かの有名な大作家先生が逗留された部屋でございます。なんて宿に多々ぶつかったり致します。
 有名なところでは伊豆の踊り子を書いた川端康成先生がお泊まりになったという宿が伊豆半島ののあちらこちらに点在しておりまして、こないだも私一人で仕事の関係で伊豆巡りの旅をしておりましたらそんな宿のひとつに出くわした事がございました。奇遇ですねこれは実に。
 そのお宿と申しますのが実に由緒正しい老舗の旅館という面もちでございまして、案内してくれた宿の女将が申しますところによりますと
「こちらの部屋が川端先生のお泊まりになった部屋になっております。景色が大変よろしゅうございますのはもちろんなんですが、何でもここが伊豆の踊り子の構想を練り上げたお部屋と聞いております」
なんて申します。実にたいそうな部屋があったもんでございます。
「といいますと、先代の女将さんか何かがその時お世話をなさったわけですかね先生の」
「はい、そう申し聞いております。それであちらが先生のお書きになった直筆の色紙になっております」
 女将のしなやかな指の先をたどりますと、何やら床の間のところに額に入れられた立派そうな色紙が飾られております。近づいてよく見てみますというとちょいとばかり黄ばんだ色紙でございます。その四角い四面いっぱいに流れるような墨文字が文字どおり踊っておりまして、読んで見ますとizunoodoriko yasunari kawabata と書かれておりまして…、その右下隅には日付が、そして左下すみには判読不能の朱色の落款が押してあります。
「すごいですね、川端康成先生は英語で自分のサインを書いてはったんですね」
「そのようでございますね、当時からすでにやがては自分の作品を世界に売り出そうという想いがおありのようでございましたようです」
「さすがは大作家先生ですな。するとなんですか。つまりこの部屋で伊豆の踊り子を書き上げたというわけですな?」
「左様に伺っております。ここで構想を練りながら、実際にお書きになったと聞いておりす」
「ほう左様ですか、まあそれでもああだこうだと構想を練りながら何やら悩みはったんでしょうなー、あちらの縁側の椅子に腰掛けたりしながら、何かこの雄大な景色を眺めながら先生の悩み苦しむ姿がしのばれますな」
「いえいえ、そんな事はなかったように聞いております、何しろ先生は英語もお得意でございましたから、作品の構想が決まりますと、一気に日本語と英語の両方で書き上げてしまわれたそうでございます」
「一気にですか英語と日本語で同時に、ハアー大したもんだ」
「はい、一気にですね。それはまるで溢れる温泉の湯水のごとく、自動筆記のようでございましたそうです」
「自動筆記ですか」
「はい、自動筆記でございます。英語ではオートマチックとか申しますそうですが」
「なるほどオートマチック。伊豆オートマチックですか!なるほどなるほど…」

 えー、おあとがよろしいようで、この辺で失礼させていたできます。

 
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